この度の台風19号の影響で、小林研一郎マエストロとの記念演奏会が中止のやむなきに至り、楽しみにしてくださっていたお客様方には、本当に申し訳なく、お詫び申し上げます。
台風は「予測可能な天災」とはいうものの、やはり実際にやって来るまでは、どれくらいの被害になるか、わからないものですね。
演奏会前日の練習の際、テレビ局の取材を受けましたが「緊張していますか」の質問に「今回はとにかく、台風がどうなるか心配で仕方ありません」と答えた私でした。
演奏会の前日12日夜、リハーサルからの帰宅後、しばらくは強い雨音に身を硬くしていましたが、日付けが変わる頃には嵐も止んで、家の駐車場に溜まっていた雨水も引き始めたため、安心してやすんだのでしたが…
午前1時過ぎ、玄関に茶色い水が入ってきているのを見て、主人が起こしに来ました。私は真っ先にヴァイオリン・ヴィオラ数挺を2階に上げました。
次に義父を主人と二人がかりで階段を上らせ、その他必要と思われるものを出来るだけ持って上がりましたが、音もなく水位は上がり、1階はたちまち腰の高さまでの深さになりました。
今回の演奏会に、打楽器のエキストラで出演予定だった次男が帰省中でしたので、いろいろと大事なものを2階に運んでくれたのですが、ほとんどの楽譜やCDなど、そしてピアノは水没してしまいました。
そのうち電気も消えてしまい、不安な夜が始まりました。流石に眠れません。窓から見ると、家の前の道は深い川と化し、平窪一帯が水没したことを悟りました。
朝方4時頃、団員O氏から、アリオスが心配で見てきたとラインがありました。浸水はしていないようだと聞いて、もしかして演奏会は出来るかもしれないと思いました。11日からいわき入りされているマエストロとソリストの為にも、ぜひ演奏会は開催したい!でも、道路も水没していたためアリオスまで行けそうにないなぁ・・・万一の時のコンミスを他の誰かに頼んでおくんだった、うちにはシンバル叩くエキストラも居るのに、急に誰かに頼めるかしら〜…等々と、開催の方向へ頭は回っていました。
翌朝は快晴、水に沈んだわが町の上に、虹が出ていました。団員方々が「衣装・靴、貸せます!」と知らせてくださり、もしかしたらアリオスまで行けばどうにかなるかもしれないと思い、楽器を背中に背負い、長靴でザブザブ歩いて向かってみましたが、途中通行止めで立ち往生のため断念するよりほかありませんでした。
この瞬間、自分の中で演奏会は無くなってしまいました。
第35回記念定期演奏会の開催については、何度も何度も話し合いましたが、マエストロのご予定、開催場所の問題、その他諸事情により延期することも叶わず、幻となってしまいました。しかしながら、小林研一郎氏のご指導を仰いだ4回の練習において、いわ響団員は皆、マエストロの素晴らしい音楽に触れ、これまでにない音を出せた瞬間が何度もありました。この経験は我々にとって何よりの財産となりました。
今回の被災に際しまして、お心を寄せてくださった皆様、誠にありがとうございました。今回の災害にめげることなく、いわ響は前を向いて進んでいくつもりでおります。これからもどうぞ宜しくお願い申し上げます。
コンサートミストレス 齋藤めぐみ

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